振り返ったら父はきっといつもの笑顔を見せてくれる、そう分かっていても私は目を合わせるどころか、振り返りもしませんでした。
せめてスーツなら良かったのに、作業着で来たことも恥ずかしかったのです。
「どうしてパパが来たの? ママに来て欲しかった! パパが来ている子なんていなかったよ!」
家に帰り、私は母に半泣きになりながら訴えました。
「ごめんなあ。いったん仕事に出たんだが、雨で仕事が無くなったんだ。家に戻ると今日は参観日だと聞いて、こんな時しか行けないし、急げば間に合うと思って走って行ったんだ。ママと一緒に行けば良かったかなあ」
涙を浮かべた私に、父は寂しそうに言いました。
そんな父の姿に、これ以上何か言うと泣き出してしまいそうで、黙ってその場を離れました。
しばらくはなんとなく気まずくて、父との会話もギクシャクしていました。
決して父のことが嫌いなわけではなく、ただ他の子と違うことが恥ずかしくて、そして父の作業着にも恥ずかしさを感じ、心ない言葉を言ってしまった幼い私。
中学生や高校生の頃も、友人が家に遊びに来た時に作業着姿の父がいると、友人に会わせたくない気持ちになったものです。
幼いながら、そのことを申し訳ないと感じてしまう自責の念もありました。
けれど、大人になり、父の仕事に対する真面目な姿勢や、その仕事の大切さを知り、幼い日に感じた恥ずかしさは尊敬に変わりました。
なぜあんな風に思っていたのだろうと、今度は自分が恥ずかしくなりました。
もし、父が生きていたなら、私の子どもの参観日に一緒に行って欲しかった。
誇らしげな作業着姿で。
漫画:佐々木ひさ枝/原案:「毎日が発見ネット」みなさんの体験記
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